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大阪高等裁判所 昭和49年(ネ)1395号 判決 1975年12月03日

控訴人 株式会社共潤舎

右訴訟代理人弁護士 松田英雄

同 江谷英男

同 藤村睦美

被控訴人 丸山茂

右訴訟代理人弁護士 植原敬一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文同旨の判決。

第二、当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する

(ただし、原判決三枚目表七行目に「譲渡制限を定め」とあるのは「譲渡制限の定め」の、五枚目表一三行目に「鉄捧」とあるのは「鉄棒」の各誤記)。

一、控訴人の主張

(一)  被控訴人の本件株式譲受は、適法な譲渡の方法によるものでないから、無効である。

(二)  被控訴人の本件株式譲受は公序良俗に反し無効である。控訴人と被控訴人との間には、控訴人所有店舗をめぐって幾多の紛争事件があり、被控訴人が控訴人代表者に対し暴力沙汰に及び刑事訴追を受けるにまで至ったほどであって、その具体的事実関係は原判決摘示の控訴人の抗弁中2の(1)ないし(9)記載のとおりであるが、このような紛争関係のもとにおいて、被控訴人が、控訴人のような本来株式の公開に不適当な特殊な会社の株式を異常な方法と価格で譲り受けた目的は、通常の場合のように、株式の値上りによる利益、配当金を得ることや、会社に対する支配権を獲得することにあるのではなく、もっぱら、控訴人に嫌がらせをし控訴人の正当な権利行使を妨害することにあって、本件株式の取得が控訴人を害する意図に出たことは明白というべきである。

(三)  仮りに被控訴人の本件株式譲受がその当時適法なものであったとしても、その後に被控訴人の有する株券はすべて無効となったから、被控訴人は、右株券の所持をもって、正当な譲受人として、名義書換を請求することはできない。名義書換請求権は、有効に株式を譲り受けた者に付与された権利であり、控訴人の現行定款によれば、株式を譲渡しようとするときは譲渡の相手方につき取締役会の承認を求めなければならないから、現在における名義書換は、譲渡人にこれを請求すべきものであって、譲受人から直接会社に対してその請求をすることは許されない。

(四)  控訴人の旧定款九条を無効とした原判決の判断は不当である。株主の権利の取得原因に不正または虚偽があると認められるときに名義書換を拒否することは、会社としては当然のことで、株式の譲渡自由の規定と何ら矛盾しないし、譲受人と会社との間に競業等の関係があって著しく会社および株主に不当な損害を与えるものと認められるときにも、書換を拒否することは、株式会社の性格から、その存続をはかるため自衛上許される性質のものである。昭和四一年改正前の商法二〇四条も株式譲渡の絶対的な自由を認めたものと解することはできず、明らかに会社の存続、利益に影響があり、ひいては株主の損害が明白であると考えられる者からの名義書換請求を、会社の自衛上拒否することは、当然の条理として認められるべきである。

(五)  本件において、被控訴人は、不正を働き控訴会社を辞任させられた元取締役竹内慶一郎を使い、小口株主の整理などといつわって株の譲渡を受けさせている経緯からみて、その権利の取得原因には不正や虚偽があり、また、控訴人の営業に対し既述のように数多くの妨害行動をしていたもので、控訴人および株主に不当な損害を与えていたことが顕著であり、もし、被控訴人が控訴人の株主となれば、さらに危害、損害が生ずることが十分予想されたので、控訴人は、自衛上、定款の右規定によって名義書換を拒否したものである。

二、被控訴人の主張

(一)  被控訴人の本件株式譲受には控訴人主張のような目的はないが、株式の自由譲渡性は法が強行法的に保護するところであって、譲受がいかなる目的によるにせよ、譲渡行為そのものが無効になることはない。株式の取得自体が会社の運営に支障を来たすものでないことは自明のところである。

(二)  仮りに、本件株式の株券が控訴人の定款変更により一定期間内に提出されなかったため失効したとしても、被控訴人において、定款変更前に有効に株式を取得している以上、株主たる地位は存続しており、控訴人に対し新株券の交付と名義書換を請求する権利がある。

理由

当裁判所も、被控訴人が原判決別紙目録(二)番号欄24記載のものを除くその余の本件株式を譲渡により取得し、控訴人に対しその名義書換を請求しうるものであると判断するものであって、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由(三項を除く)と同一であるから、これを引用する。

(一)  控訴人は、被控訴人の本件株式取得行為自体が公序良俗に反する旨主張する。しかし、一般に、法律行為の動機の反社会性は、動機が表示されて行為の内容とされた場合にのみ、行為の効力を左右するものであり、とくに株式のように非個性的で流通性の強い権利については、取引安全の見地からも、取得の目的や取得者の個性が取得行為の効力に影響することは、容易には認めがたいところである。しかも、控訴人主張のように、従前会社と紛争を続け敵対関係にあった者が、株主としての権利行使により、会社の経営ないしは業務執行に影響を及ぼし、ひいては紛争を有利に解決することを目的として、株式を取得することも、会社の経営支配を目的とする株式取得等と同様、それ自体は合法的な経済活動の域を出るものではなく、一般社会の倫理観念に反する不法な目的によるものと評価しえないのであって、この点については、株式譲渡の自由を保障する法制のもとにおけるかぎり、会社の特殊性を考慮する余地もないのである。そして、株式取得者が、何らの実益なく、単にいやがらせのため、会社の正常な運営を妨害する等の所為に出る場合には、その個別的行為を抑止すれば足り、その恐れのあることを理由に株主資格の取得自体を否定する必要はないのである。なお、株式取得にあたって不正または虚偽の手段を弄した事実があっても、それはまず譲渡の当事者間において解決されるべきことであり、会社において直ちに取得行為の無効を主張しうることにはならない。したがって、控訴人の主張はそれ自体失当というほかはなく、被控訴人は本件株式を有効に取得したものである。なお、譲渡の方法が適式なものであったと認められること、有効に譲渡がなされた後に株式が失効しても譲受人の株主たる地位が失われるものではないことは、前記引用の原判決説示のとおりである。

(二)  株主名簿書換請求権は、株式取得の実体に応ずる形式を作出するために認められる権利であるから、実質たる株式取得の効力を否定することができない以上、会社が名義書換請求を拒否することも許されないことは当然である。したがって、控訴人主張の旧定款九条は、株式取得行為自体の効力を否認しうることを前提とするものと解するほかはなく、昭和四一年法八三号による改正前の商法二〇四条が株式譲渡の絶対的自由を保障した趣旨に反し無効であって、右定款の定めを根拠に名義書換を拒否する控訴人の主張も失当である。

よって、被控訴人の請求の一部を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 野田宏 中田耕三)

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